こちらは、今年発行された平野啓一郎さん翻訳による「サロメ」です。
「サロメ」 ワイルド 平野啓一郎訳
この新訳を読んでまず驚いたのが、旧訳と同じ世界で起こっている事なのかと疑う程、登場人物が瑞々しいことです。
特にサロメの人物像は、全く別人のように愛らしく、無邪気に描かれています。
そして、そうなった経緯が後半に収録されている「訳者あとがき」や宮本亜門さんの「サロメに寄せて」という文章を読むとよく解ります。
確かに、旧訳はピアズリーの挿絵も含めて、完成された世界観があり、演技や、演出の立ち入る隙がないかもしれません。
平野訳は、その世界からサロメ自身を解き放とうと、描かれています。
解き放たれたサロメは、息づく愛らしさや魅力を放ちます。
けれども、物語は同じ結末を迎えます。
福田訳で読むと、サロメがヨカナーンの首を欲するのも、必然のように感じますが、平野訳では、無邪気な残酷さとともに、そこになんとも言えない悲しさあり、「『悦び』に『呪われた』」姿が伝わってきます。
こちらの本、「訳者あとがき」や「解説」もとても充実していて、本編はもちろん、ワイルド論としても楽しめる一冊です。
「ああ!わたし、お前の口唇にキスしたよ、ヨカナーン。お前の口唇にキスした。苦いのね、お前の口唇って。血の味なの?・・ううん、ひょっとすると、恋の味なのかも。恋って、苦い味がするって、よく言うから。」
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